『もはや老人はいらない』
なんとも刺激的なタイトルですよね。
著者の小嶋さんは、介護士を経て有料老人ホームのコンサルタントをしているそうです。
「もはや老人はいらない」というタイトルだけを見ると、誤解する方もいるかもしれませんが、本書は小嶋さんが、色々な老人ホームの環境を見ている中での経験から考える
「国の制度や世の中の考え方についての疑問や問題」
が大きなテーマとして書かれています。
私も理学療法士として、今まで3つの老健とデイサービスの管理者と、介護関係の仕事をしてきて、色々と考える部分があったため、それも含めて本書の内容をお伝えしていきたいと思います。
こんな人にオススメ!
- 老人ホームの現状を知りたい
- 介護保険制度の問題点を知りたい
- 自分や家族に合った老人ホームを選びたい
老人ホームが中心に書かれてはいますが、国の制度についてのことも多く書かれているため、仕事で介護・福祉関係の仕事をしている方は深く知ることが出来ると思いますし、ご家族の中で介護を受けたりしている方にも絶対にプラスになる情報が書かれています。
この業界を知っていただくためにも、多くの方にこの本を読んでみて欲しいと思いました。
内容
<介護保険制度に対して>
本書の中で1番問題として挙げられているのがこの部分になります。
タイトルにもある「老人はもういらない」とは、
国の制度がそう言っているのではないか
という事なのです。
<国の介護から地域の介護へ>
介護の世界では2025年から「地域包括ケアシステム」が動き出します。
これは、今の中学校区の中で高齢者介護も解決していくという事です。
介護保険制度が導入された2000年の段階では、国が国民を守る制度として出来ました。しかし、その責任が各都道府県にかわり、現在は市区町村にかわっています。そして2025年には中学校区になるのです。
これだけ聞くと、悪くは感じられないと思いますが、介護保険料についても地域に任されてしまうため、負担が大きくなっていくのは間違いありません。
私個人としても、この地域差をすごく感じている部分があります。
例えば、私は以前訪問リハビリも2つの地域で行っていたことがあります。
この時の地域の考え方によって、訪問リハビリの対象者も変わってくるのです。
東京23区内の訪問リハビリの考え方の多くは
「通いのデイサービスなどには通いたくないから訪問を使う」
これがケアマネの考え方次第でまかり通ります。
しかし、千葉県のある市では
「通うことが出来ない人にしか訪問リハビリは適応でない」
という考え方が中心です。
つまり同じ身体状況の人でも地域によって訪問できる地域とできない地域があるのです。
この地域差はすごく違和感を感じています。
<介護保険制度の使いにくさ>
介護保険制度は非常にわかりにくく、使いにくいものになっています。
本書では、制度も使いにくくすることによって、使う人を少なくしている作戦なのではないかと言われています。
国の制度がどんどん変わっていくために、事業者もそれに振り回されています。
その結果、今までほとんで聞いたことがない施設の名前などもよく聞くようになってきました。
介護に関わりのある仕事をしていればどんな施設かわかりますが、そうでない方にはかなり複雑でわかりにくいものになっていると思います。
だからこそ、自分の老後は自分で考えて守らないといけないのです。
「知識」と「お金」
この2つは絶対に必要になってくるので用意しておく必要があります。
<利用者側の知識不足>
利用者側は、そもそも病院と介護施設を混同している傾向があります。
また老人ホームや介護施設には様々な種類があります。
- 有料老人ホーム
- 特別養護老人保健施設
- 老人保健施設
- グループホーム
- サービス付き高齢者住宅 など
(ここでは深くは説明しませんが)
これらの施設は一応、対象の方が異なってます。
例えば、
いずれ家に帰りたい・死ぬまでいたい
かなりの介護が必要・ある程度自立している
などにより「この状況ならこの施設!」となるようにこのような多くの種類の施設があるのです。
しかし、このような線引はあるものの、
実際はかなり混同しているのが現状です。
さらには有料老人ホームの中にも
- 看護師が常駐しているホーム
- 看護師は定期的にしか来ないホーム
- 介護士の数が多いホーム・少ないホーム
といった種類があるそうです。
各施設にもこのような種類があるため、選ぶ側はもう訳がわからなくなりますよね!
もちろん看護師が常駐しているホームの方が月額の利用料は高くなりますし、介護士が多い方が高くなります。
「看護師がいる」「介護士が多い」というのは安心感に繋がりますが、そのようなホーム程、利用者の身体レベルや認知レベルが低い可能性も高くなります。
そんな老人ホームにある程度自分で動いて認知面もしっかりしている方が入居したらどうなるでしょうか。
大抵の方は周りとのレベルの違いに、我慢の連続になってしまう可能性が高いのです。
なので、本当に必要なサービスなのかを考えて見極める必要があります。
小嶋さんは本書の中で、
「老人ホームは必要に応じて住み替えることが重要」
と言われていました。
<老人ホームも過当競争>
現在の老人ホーム事情は、
「老人ホームの過当競争時代」
であり、その結果、客の取り合いになっています。
入居を検討している時には、施設側は良いことを言うでしょう。
しかし、全てを鵜呑みにするのではなく、いくつかの場所を見学するなどして、その人に合った場所を決めるべきです。
もし嫌な思いをするようであれば、転居も視野に入れていいのではないでしょうか。
(もちろん、有料老人ホームは入居する際に多額のお金がかかりますので、それを考慮する必要はありますが。)
<介護職員問題>
「介護職員が足りない」
「せっかく100万円かけて紹介会社から人を雇ったのに、すぐに辞めてしまう」
これは介護業界では、かなり大きな問題となっています。
転職が多い理由
まず転職が多い理由について小嶋さんはこのように言っています。
本当に介護がしたい人だけでなく、失業者などに対して国が
「介護士を増やしたい」
という国の考えから、失業をしてハローワークに来た人たちに対し、一定期間介護士として働くことを条件に資格が取れるという政策を講じて介護士が増えた。
つまり、最後の受け皿にしたのです。
これが質の劣化につながっているとのことです。
一般的に介護士といえば、コミュニケーションが得意な人が多いと思われがちですが、実際にはそんなことはありません。
上記のように一般の仕事を続けられずに、「どんな仕事でも良いから」ということで介護の道を選んだ方も一定数いるため、中には「コミュ障」と言われる方もいるのが現状なのです。
施設ごとの流派や流儀
また、それぞれの施設ごとに「流派」や「流儀」が存在しており、働く側にも、入居を考える際にも、それが重要だと言われています。
「流派」「流儀」に関しては、「介護」という世界にはしっかりとした正解がありません。なので、自分の雰囲気や信念に合った入居場所や職場を探すことは長期を見越して要るなら絶対に必要なのです。
この部分に関しては私も同じ意見です。
もっと言うと、数年前までは質の良くない職員と、介護をしたいという職員が介護の専門学校に入ってくるため、新入職員はどちらかに分かれるイメージでしたが、現在は学校にそもそも日本人の方がかなり少なくなっています。場所にも夜と思いますが、約半数が外国の方という現状という話を聞いたことがあります。
<世の中の意識変革>
今の世の中は「尊厳死」や「看取り」と言ったキーワードで人の死を正当化しようとしている。このことも問題であると言われています。
例えば「胃瘻(いろう)」を行い、口から物を食べなくても直接胃に食べ物を入れることでエネルギーを摂取する方法があります。
今の人は「胃瘻になるくらいなら死んだほうがマシ」と思う人は多いと思います。ですがいざそのような立場になると、胃瘻をしても生きたいという人も少なからずいます。「生きたい」という意思は尊重されるべきです。
しかし、それが「胃瘻は悪である」という風潮に国がしている部分もあります。制度が「胃瘻」に対する報酬が減少しているのです。そのようなイメージ操作は問題なのです。
その他にも、気管切開などの「延命治療」でも、それを残酷とするイメージを植え付け「延命治療は悪」という風潮になっています。
これらの国の政策やイメージ戦略は「もはや老人はいらない」と考えているようにしか思えないのです。
このような考え方は正解不正解がないため、個人が考えていく必要があると思います。
イメージによって左右されるのではなく、個人個人の意見が尊重される世の中になってほしいと願っています。
感想
所々に私の考えも織り交ぜていますが、この本は国に対して大きな問題を訴えかけています。
本当に国が多くの人に使わせたくないため、介護保険を使いにくいようにしているのかという真相は分かりません。
しかし、私たちが知識をつけないと損をしてしまうのは間違いないのです。。
私も介護保険制度の使いにくさや、日々変わる制度に対しての不満は多く感じています。
このような問題は制度の中で働いている人間にしかわからない事情だと思いますが、一人でも多くの方にこのような問題があることを知っていただき、国に訴えかけていけたら改善していける可能性はあるはずです。
私たちの家族が、そして私たち自身が老後に、自分の生きたいように生きていける世の中になって欲しいと願っています。